最初、イルカ先生を「いいな」と思ったのは初めて二人で飲んだときのことだった。
お互いに受け持った生徒たちの話をするうちに、彼の優しさに触れ、道端で別れた後、また呑みに行きたいなーなんて思った。
その時は気付かなかったきもち。
もう何回目になるかはまだ分からないけど、こうしてまたいつもの呑み屋で彼と酒を交わしていた。
「それがですね、そこでサスケが…」
俺が今日任務であった事を話していると、彼はその、可愛らしい、黒目がちな瞳をキラキラさせて耳をかたむけてくる。
あぁ、ちょぉかわいい。かわいい、かわいい、かわいい。
もう大分前になるかな、そんな彼のことを好きだって気付いたの。第一印象は「平凡で、優しそうな人」で、生徒想いな先生なんだなーって思ってたくらいだったのに、なんかもー今はぜんぜん違うかも。俺、男色の趣味なんてなかったのにね、ちょっとはその気あったんだーだなんて笑っちゃったりもする。
なんだか彼のことを考えているだけで楽しいんだよね、これが。
今更だけど、もしかしてこれって俺にとって初恋?
酔いも回ってきて、イルカ先生の目もトロンとしてきた。
周りは相変わらずうるさい。中には酔っ払って踊りだしたりしてる人とかもいるけど、彼の場合は、今まで一緒に呑んで来た経験から、逆に酔うと静かになるということが分かった。それは俺にとっては都合いい事なのか悪い事なのかは分からないけど。
彼はただ、幸せそうに、酒の入ったコップを眺めているのだ。
やばい、その目付き、ホントいい。
暫くそんなイルカ先生のことを見つめていたのだが、身体の一部に熱が集まり始めたので慌てて目を逸らし、他の話をふる。
情けない。向こうには、そんな気持ちなんてこれっぽっちもないのだろうに、こっちばかりが欲情しているだなんて、何俺一人で馬鹿やってんだろ。
そう思うと共に、少々悲しくも感じる。あーあ、また今日も帰ったら、一人さびしく彼の事を考えながら自慰をするのか。この体も情けない。女なんてカンタンに手に入んのに、彼じゃないと勃たないなんて。
そんな頭で考えている事など、おくびにも出さずにイルカ先生に話をしている自分。彼の顔をチラと見やりながら、心の奥で溜息をつく。
ああ、貴方を俺だけのものにして、何と言うか、その、メチャクチャにしたい。でもなぁ、ここで告ったら、きっと先生、俺のこと気持ち悪がったりするだろうな。でもやっぱ、ヤりたい。今すぐにでも、この俺の持て余している熱を、先生の奥にぶちまけたい!!!…
と。
「…あの、カカシ先生…、ちょっと、お話があるのですが…」
俺が欲望でコップを持つ手を震わせていると、イルカ先生が、そのかわいいかわいい笑顔を零しながら話し掛けてきた。
「は、はい!?」
もうこれだけで下半身はバクハツ寸前だ。彼の、酔って体温が上がったせいで赤くヌラヌラと光る唇、その瞳!!そして少々悩ましげな声!!!キレイに3拍子揃ってるじゃないか!!!…
すると次の瞬間、彼の口から思わぬ言葉が飛び出した。
「カカシ先生は、同性との恋愛についてどう思いますか?」
思考が一瞬、止まった。
―え、同性愛?それってまさか―…
心臓がうるさいくらいにバクバクする。こんなに鼓動が速くなったのって、前にSランク任務で殺されそうになった時以来かなぁ…いや、それよりも速いかも。どどど、同性愛だなんてそんな、何て積極的なんだイルカ先生…
結局は、両想いだった、そんなとこ??
問いに答えてくれ、と言わんばかりに、イルカ先生は軽く首をかしげ、内心焦りまくりの俺を見つめてくる。そのまっすぐな眼に、また胸が鋭い音を立てて撃ちぬかれる。
俺は思い切って、あくまで平静を装いながらも、今自分が思っていることを言ってみた。
「俺は―…別にイイと思いますよ?」
すると、途端に彼の顔が緩み、ホッとした表情となった。こ…これはまたいい反応。
さらに調子に乗った俺は、意味深そうな言葉を付け加えてみた。
「実際、今俺が好きな人も同性なんですよ」
そしてそれは貴方です!と言うように彼の顔をチラリと見やると、ニコニコニコニコ、とても幸せそうに笑っていた。こ、これはなかなかいい反応。
「そうですか…――」
そう言って急に黙ってしまったので、目で促す。
「あ、あの、俺…とっても嬉しいんです…まぁ前から一緒に呑んでいて、カカシ先生は差別などしない方なんだなぁとは思っていたんですけど…
俺も、好きな人が…同性なんで……」
今までニコニコしていたのに、彼は急におどおどと落ち着きをなくし始めた。頬を赤らめ、目の前のコップを見つめている。ああ、指が白くなるくらいズボン握りしめちゃって。そりゃそうだよね、その「好きな人」がここにいるんだもんね。
「その人は――とても子供好きなんです…」
ポツリポツリと彼は語りだす。うん、俺子供好き好き。
「それで、とっても優しくって――…」
うん、俺ってとっても優しいよ。ベッドの上では分かんないけどね。
「笑った顔が…すごく、カッコイイって言うか…胸にキュンってくるんです」
あー、まじで?俺の笑顔ってそんなカッコイイ?まぁ俺の顔って結構いい方だって思うしね。
そこまで言ったところで急にイルカ先生は口をつぐみ、すごい勢いで俺の方を向いた。とても真剣な顔つきだ。そんな顔もまた可愛い。
「あのですね、カカシ先生…ずっと前から俺は――」
もうその先なんて言うまでもないだろう。
「俺も、、です!!」
イルカ先生の言葉をさえぎり、俺は力いっぱい叫んでいた。大丈夫、周りの人達は俺達なんか全然気にせずに騒いでいる。
「俺も、ずっとずっとずっと前から大好きでした!!!」
急に、イルカ先生の目が点になった。
「…………え………」
あー、両想いっだたのが意外だったんだ。かわいいかわいい。
「どうしたんですか、イルカ先生。目ェ点にしっちゃって〜」
両想いになった!という肩書きのもとで彼に擦り寄ってみると、なぜか突っぱねられた。なんで、という顔で見つめてみると彼の険しい顔が視界に入ってくる。ん?彼は怒っているのだろうか。ここは別に怒るとこるじゃないと思うんだけどなぁ。
「カ、カカシ先生も、そうだったんですか…」
噛み締める様に出た言葉には、明らかに怒りというか、戸惑いが感じられた、ホント、俺何かしました?
突っぱねられて行き場を失った手をブラブラさせていると、彼が急に立ち上がったのでビックリする。
「ど、どうしたんですかイルカ先生」
顔が伏せられているため表情が窺えない。なんでいきなりこんな展開になっちゃんたんだろうと自分も立ち上がってみると、彼はポツリと呟いた。
「じゃぁ…今日から俺達、、ライバルですね…」
「ラ、ライバル??」
そう言い残すと、彼は去って行った。
一応店から出てみて追いかけようかなぁとは思ったけど、やめた。
きっと彼は戸惑っているんだ。両想いだったって事に。だから今日はそっとしといてあげよう。俺ってなかなか分かっている奴だなぁ…でも本当は今夜を初夜としたかったんだけどねぇ…億手な彼のことだから。
でも、、ライバルって何なんだ?ガイの真似か?そういや前、あの人ガイに憧れてる〜みたいな事言ってたかも。そっか、だからアイツみたいにカッコよく捨て台詞を決めてみたかったのか。いや、でも別にガイの台詞はカッコよくないと思うのだが。ちょっと妬ける。
そんな風に思うことにして、俺はゆったりと店を出た。
「億手なイルカ先生が大好きだーーーーーー!!!」
だけどなんか悔しくなって、帰り際に思いっきり叫んでみた。
横にいた猫がこっちを振り返った。
「はぁああ……」
イルカは自室にて、ベッドに倒れ込む。
と、同時にこみ上げてくる嗚咽。
「うっ……ううっ…」
あの時、カカシ先生の発した言葉が一瞬信じられなかった。
上忍だし、信頼していたから相談してみたのに。
まさか、カカシ先生も。。
「アスマ先生のこと…好きだったなんて…」
子供好き、
優しい、
笑顔がカッコイイ、
アスマ先生。
「……知っといて良かったのかなぁ…それとも、他の人に相談すればよかったのかな」
そう独り言をこぼし、イルカは窓越しから満天の星空を仰いだ。
「アスマ先生…」
「イルカ先生…」
カカシは、明日、受付に行くのが楽しみだなぁ、と思った。
イルカは、明日、受付に来られるのが嫌だなぁ、と思った。
20060515
なんか最初から結末が見えてるような…;;;
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