初めて彼を見た時、それこそ心臓を鷲掴みされたかと思った。


初恋



僕が先輩と話していていると、遠くから人が駆け寄ってきた。高く結った髪が走る度にぴょこぴょこ揺れている。
「カカシ先生!」
「イルカ先生〜」

その時僕はぴんと来た。あれがカカシ先生の言っていたイルカ先生か、と。
それはもう、僕に会うたびに先輩はその「イルカ先生」とやらについて語ってきていたから、嫌でもその名前が耳についていた。先輩にしては珍しい、恋人というものだから、というのもあるかもしれない。

「イルカ先生」と呼んだ途端、先輩の顔がふにゃりと緩んだ。そんな表情などあまり見たことがなかったので、少しびっくりした。


その「イルカ先生」は、「カカシ先生のお知り合いですか?初めまして!イルカと申します!」と、にこやかにあいさつをしてきた。



…途端に、胸が、どぎっと鳴った。
ぎりぎりぎり、と、なにかが胸を締め付ける。

まっすぐに自分を見つめてくる「イルカ先生」は、健康的に日焼けした、まさに「好青年」といった印象の人だ。
別に女っぽい顔つきでもないし、どちらかというと、ごくごく普通の中忍ってかんじ、なのに、


だめだ、彼の目を直視できない。そんなことしたら、何かが爆発して卒倒してしまう。




それでも、なんとか平静を装って、彼に「はじめまして。ヤマトと言います」と言うと、彼は嬉しそうに会釈をした。

だが、その僕の心境の変化を、カカシ先輩が見逃しているはずなんてなかった。








「テンゾウってさ〜、イルカ先生のこと、どう思ってる?」

ぶっとビールを噴いてしまうところだった。
慌てて先輩の方を見返すと、彼はにやにやと俺の様子を窺っている。

まったく先輩も酷い。僕がイルカ先生のことを気になっているというのを百も承知で、わざと「どう思っているか」なんて聞いてくるのだ。
今更嘘をついたってしょうがないとは思ったが、一応、
「どう思っているか、って…どういう意味ですか?」
と言ってみた。

すると先輩は面白そうに目を細め、頬杖をついた。
「分かってるくせに」

分かっているのはそっちだろ、と思ったが、このやりとりをずっと続けていても終わりがないと思い、半ばやけくそで言ってしまった。

「気になっていますよ、イルカ先生のこと。」


するとあろうことか、先輩はぶっと吹き出したかと思うと、げらげらと笑いだした。

「な…先輩!!なに笑っているんですか!!」
「いやだって…あんまり予想通りの反応だったからさ〜」

先輩の恋人が気になっているという、なんとも気まずい発言をしてしまったのに、相変わらず訳の分からない反応をする先輩に、僕は少し呆れてしまった。

散々笑った後、彼は、
「やっぱり似た者同士って、おんなじ様な人に惹かれるもんなんだね」
と呟いた。

「そうですね…僕自身、びっくりですよ」
思わずぽろっと出てしまった本音にびっくりし、先輩の方を見ると、彼は朗らかに笑っていた。

「テンゾウもかわいいね〜」
「…未だにガキ扱い、するんですか」

「テンゾウも、いい人見つけなよ」


そう言い、先輩は僕の肩をポンと叩いた。
その瞬間、背筋がひやっとした。

「いい人見つけなよ」という言葉に隠れた脅威を感じとったからだ。
まるで他人事のように聞こえるが、その裏で、俺とイルカ先生の間には入れないと言っている。

先輩は相変わらず笑っているが、それとは逆に、俺は打ちひしがれていた。


その夜はそれっきり、イルカ先生について話すことはなかった。




家に帰って一人、初恋は実らないという言葉って、本当だったんだ、と思った。先輩の場合を除いて。






20110220

ベタですみません………;;;



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