こんなはじまり?
「ねぇイルカ先生、好きなんです」
さっきから、そう後ろから聞こえてくる声。
「ねぇ、好きなんです。好きなんですってば」
聞こえないふりをしていると、肩を掴まれる。
ここはアカデミーの廊下、しかも午後2時となると通行人も多い。皆がこっちを見ている。
「好きなんですよ。分かってます?」
向き直らされ、もう何度目かも分からない言葉を掛けられる。
そうやって自分に先ほどからしつこくしつこく言ってくるのは、はたけカカシ。
ナルトの上司であり、木ノ葉の里を誇る上忍だ。
だけども、彼との接点はナルトを通してだけのことであって、これといって親しいわけでもない。今まで、数えるほどしか話していないのに。
昨日、それは突然起きたのだ。
*** ***
いつもの様に、職員室で書類を整理して、帰る用意をしていた時。
「イルカ先生!!」
いきなり職員室のドアが開いたかと思うと、なぜかカカシが凄い形相で入って来た。一体何の騒ぎだろう、と眉をひそめていると、いつの間にか彼は、オロオロしている同僚を押しのけ、自分の目の前にいた。
「ど、どうしたんですか、カカシ先生…」
彼に何かしたであろうか。まさか、先程チェックしていた報告書にミスがあったりしたのだろうか。たまに小さなことでケチを付けてくる上司がいるので、カカシの瞳を見据えたまま、少し身構えた。
すると、カカシは突然、鼻息荒げに叫んだ。
「イルカ先生、好きなんです!ずっと前から好きだったんです!」
*** ***
…一体、自分が何をしったって言うんだ。
こんな、うだつのあがらない中忍を相手にして、何の罰ゲームだって言うんだ。
それから次の日になった今日も、カカシは暇さえあると、自分のところへ飛んできては必死で『好きです』を連呼するのだ。もう、この二日間に言われた回数は何百回になっているだろう。
大袈裟にため息をつくと、またもやカカシが顔を覗きこんできて、言う。
「好きなんです。」
最初は、丁寧にながしていた。
だけど、もう限界だ。
「こんな事して、楽しいんですか」
声を震わせてそう問うと、当のカカシはそれに大して首をかしげる。
「こんな事、というのは?」
その言葉に、またブチリという音が脳内に響く。ここはアカデミーの廊下。公の場だ。だけどもう場所なんて関係ない。
「お、俺みたいな…しがない中忍相手、からかって…な、何が楽しいんですか」
通行人が立ち止まって、自分達を見ている。視線がチクチクと痛かった。すこし俯き加減でそう言い、それから顔を上げると、彼は未だに理解できないという様な表情を浮かべていた。
「楽しいって?楽しいとかそーゆーんじゃないですし」
「じ、じゃあ何なんですか!!」
自然と声を荒げてしまう自分にビックリする。
まだ飯だって一緒に行ったこともないのに。ましてや同性にこんな事言われまくって、焦らない人なんていない。
「な、なのに…なのに…」
いきなり、そんなこと言われても。
興奮のあまりに視界がぼやけ始めてきた時、不意にカカシが手を差し伸べてきた。
「少し、外でお話しましょうか」
その笑顔は、何を考えているのか分からない様な、そんな笑顔だった。
*** ***
書類を両手に抱えたまま、同意もしないうちに校庭へ連れて行かれた。
「勘違いしないでくださいね」
とある木の前で立ち止まると、カカシは手をやっと離し、そう言った。何を、と言いかけると、またカカシの言葉に遮れられる。
「いじめとかじゃないですから、ほんと。俺、本気ですもん」
「……」
口でなら何とでも言える。でも、そう何度も何度も言われると、頭がおかしくなる。
「いきなり何回も告白されて……め、迷惑でした?」
先程よりさらに増して顔色を悪くしたイルカに気を使ったのか、大木にもたれかかりながら、カカシは問いかけてきた。
「当たり前じゃないですか…」
あまりの、彼の気の抜けた雰囲気に、流石に怒鳴る気力も失せてきた。汗ばんだ手のひらをズボンで軽く拭い、またもやカカシを見据える。
「あんなに大声で言われたせいで、今じゃ里中の噂ですよ」
「そう、ですよね…」
ハハ、と苦笑いして頭を掻くカカシ。その瞳は悲しそうだった。
「や、やらなきゃ、って思って…」
「は?」
数秒間の沈黙の後、ポツリとカカシは呟いた。よく分からなくなって声を上げた。
「アスマが、きっかけだったんです」
「アスマ先生が??」
書類を取り落としそうになったのを、カカシが難なく受け止めて言葉を続ける。
「はい。なんていうか…」
*** ***
『恋、だな』
って、俺がイルカ先生を見つめてると、横でそうアスマが言ったんですよ。なんかね、そん時俺は何故か『恋』だって信じたくなかったんですよね。
でも、そういわれてみると確かに、俺は気がつくといつもイルカ先生のことを頭に思い浮かべてたんですよね。でもね、それでも認めたくなくって。
そしたらそれから数日したらね、今度はゲンマが、
『恋、ですねぇ』
アンコと紅が、
『恋、ねぇ〜』
ハヤテまで、
『恋、ゴホゴホ、、ですね』
ってねぇ〜。もーここまで来たら認めるしかないでしょ。その時点で俺も折れちゃったし。うん、初恋ってやつかな。俺もまだまだガキだよね。
*** ***
「ずっとね〜〜、見てたんですよ」
書類を軽く整理して、返される。
なんだ、そのきっかけ。つまりは、誰かが言ってくれなきゃ分からなかったんじゃないか。なんだか胸がチクチクした。
「た、ただの分からず屋なんじゃないですか」
「そーよ、カカシはただの分からず屋」
ドロン、という音がして、気がついたら横に紅先生とアスマ先生がいた。
綺麗な笑みを浮かべて立つ紅と、面倒くさそうにしながらも、どこか楽しそうにしているアスマは、なかなか絵になるな〜、と思ってしまったのだが、アスマの言葉に引き戻される。
「な〜イルカ。そういう事でよ、その分からず屋の相手をしてくれねぇか?」
そろりとカカシの表情を伺うと、彼は照れ臭そうに笑って、歩み寄ってきた。
「だ…だめ、、ですかね??」
その口調があまりに幼く聞こえたからなのか、
紅先生やアスマ先生が側にいたからなのか分からなかったけど…
「はい」
なんで、俺はそう言ってしまったのだろう。
まぁどっちにしろ、カカシ先生はいい仲間を持ったなぁと、思った。
20060830
アスマと紅はいい人でw